うつ病と自傷行為、怒り、不機嫌、アルコール依存症、ギャンブル依存症

うつ病と言うと、一般には「真面目、几帳面、いい人」「気分の落ち込み、絶望感」というイメージが描かれると思います。もちろんそれは間違いではありません。ただ、そのようなイメージはいろいろな病状を呈するうつ病という病気の一面しかとらえていません。

うつ病の症状は、様々なものがあります。中でも、怒り、不機嫌症は結構ありふれたものです。特に、男性のうつ病では、気分の落ちこみや気力の低下よりも、不機嫌や「キレやすい」症状が表れやすいのです。男のうつ病は、不機嫌が目立ち、家族や上司、世の中への不平・不満、時には暴力的な行為として表現されます。彼らは結構理屈っぽくてキレると厄介で、自分を責めるよりは他人を責めるし、一見ではエネルギーが落ちているように見えないので、うつ病には見えません。また、男性の場合、うつ病になると酒量が増えてアルコール依存症の状態になったり、(特にパチンコに多いのですが)ギャンブル依存症になることが多いのです。

もちろん、不機嫌、キレやすい人、アルコール依存症やギャンブル依存症の人の全てが、うつ病ではありません。そのような人の中でうつ病ではない人もたくさんいます。

では、不機嫌やアルコール依存症の人の中にいる、うつ病の人をどう見分けるのか。それは、全体的な元気、生気とでも言うべきものがあるか無いかが大きなポイントです。不機嫌で不平不満を話すものの、話の内容やパターンはいつも同じであったり、アルコールを飲んでも決して上機嫌になることもなく、同じような愚痴が多かったりすれば、うつ病の可能性が結構あります。
特にパチンコ依存症の中には、結構うつ病の人がいます。パチンコという遊戯は、遊びとしては全く面白くないものです。パチンコは器用さで勝てるものでもありません。何ら上達することもありません。ゴルフやマラソンなどのスポーツ、囲碁や将棋、俳句や楽器といった趣味と比べて、身体や頭を動かすことによる快感や、工夫や努力により上達する喜びもありません。しかもパチンコは、全く孤独な行いです。そんな虚しい遊戯でありながら、お金だけはたくさん取られます(こんなに言うとパチンコ業者さんから怒られそうですが)。 そんなつまらない単純な行動を半日でも1日でも続ける、しかも大ヤマを当てようとする気持ちの高揚も無いまま、ダラダラとパチンコを続けているならば、うつ病の可能性があります。

思春期のうつ病では、もっと複雑な病状を示します。大人と同じように不機嫌になって物に当たったり家庭内暴力を振るったりすることもあります。死ぬつもりは無いのに、自分の体を傷つける(リストカット)こともよくあります。また、子どものうつ病では、身体の症状として症状が表れやすいのも特徴です。頭痛、吐き気、腹痛、立ちくらみ(俗に言う「貧血」)、動悸、過呼吸、手足の脱力などの症状が目立ち、「自律神経失調症」と診断されることもよくあります。気分の落ちこみや意欲の低下は、目立たないか全く見られないことも多いのです。

自傷行為、アルコール依存症、ギャンブル依存症の意味、治療法

自傷行為、アルコール依存、ギャンブル依存は、それ自体が病気と見なされがちですが、自身のうつ病の症状を良くしようとする自己治癒力の表れ(私たちの業界用語では「コーピング(対処行動)」と言います。)なのです。リストカットなど自分を傷つける自傷行為を行っている時、飲酒している時、パチンコをしている時には、一時的とは言え、気分の落ちこみや不機嫌といったうつ病の苦しみから解放されます。
ただ、自傷行為や飲酒、パチンコといった行為は、あまり良い自己治癒行為・コーピングとは言えません。リストカットならば跡が残り、それが苦しい時を繰り返し思い出させることになったり、パチンコ依存ではお金を失うばかりか、時間の無駄をして虚しさだけが残ったりします。そんな場合、私たち治療者は別のより良い対処行動を提案する必要があります。自傷行為をするよりもノートに不満や怒りを書き出したり、会社や世の中を変えるために社会はどうすべきかを考えてみるとか、パチンコをするより運動をしたりプラモデルのような工作をしたり何かのコレクションをしたりするなど、少しでも生産的で周りの人に感心されるような行動を提案します。
そのような提案をするためには、患者さんの話をよく聞いて、患者さんの興味や得意分野、才能を探りながら、うつ病の回復度を見ながら適切なタイミングで対処行動を提案することが大切です。時々、「うつ病には運動が良い」と聞いたらすぐに、時には無理矢理に運動を勧める治療者や御家族がいますが、そのような「善は急げ」の姿勢では逆効果です。あくまで、うつ病の回復具合を見ながら大事なタイミングをとらえて「◯◯やってみると良いかもしれませんね」と控えめに勧めてみるのが良いのです。